不動産鑑定士のブログ 〜坂の上の雲〜

更新頻度が比較的高い不動産鑑定士のブログです。ためになる情報を発信していきます(たまに下ネタも。)。

AM会社のしごと(ファンドの常識)

こんにちは、城山です。

 

不動産鑑定士多しと言えど、

不動産ファンド

その仕組

ファイナンス

ボンド

IPO

PO

アクイジション

エグジット

アセットマネジメント

私ほどAMのすべてを経験し、

精通している不動産鑑定士はいないでしょう。

 

前回からの続きです。

 

www.buzzlife1a0312758.com

 

■長期借入金

まず、短期借入金は、

借入期間が1年以下、

つまり借りたタイミングで、

返済期限が1年以内にくるものを言います。

 

長期借入金はその逆で、

借入期間が1年より長い、

つまり借りたタイミングで、

返済期限が1年以上先のものを言います。

 

REITの長期借入金の金利決定

借入実行が月末だとしたら、

その2日前に借入金rが決定します。

 

今月だと30日の2日前にあたる

28日の午前10時に決まります。

 

トムソンロイターの特定の画面に

午前10時に表示されるスワップレートに、

スプレッドを乗せた数値が

借入金利となります。

 

スワップレート + スプレッド = 借入金利

です。

 

 

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だいたいどこのファンドにも置いてあるトムソン・ロイターのPC

 

 

なぜか午前10時ちょうどに

表示された画面のスワップレートです。

これは慣例というか、、ナゾです。

 

まあ9時から普通の事業会社は

仕事が始まりますし、

いろいろと考えた上での時間なのでしょうね。

 

知ってる方がいらしたら教えてください!

 

スワップレートについて

スワップレートは、

自分でコントロールできません。

市場が決めます。

 

ファイナンス担当者は、

スワップレートはコントロールできないので、

市場を観察し、

「いつのタイミングで借入実行すれば、

スワップレートが比較的低いか。」

を予想します。

 

並行してファイナンス担当者は、

金融機関の担当者に、

接待をし、

ファンドの正しい情報を提供し、

その情報を丁寧に説明し、

日々コミュニケーションを取り、

細かな連絡を絶やさず、

営業マン並みの仕事をします。

 

不動産鑑定士試験勉強で学んだ成果を

活かすときです。

 

経済学で学んだマクロ経済学が、

ファイナンス担当者には必須です。

 

■スプレッド(上乗せ金利

スプレッド、つまり上乗せ金利は、

金融機関が評価するそのファンドの実力です。

 

よいファンドであればあるほど、

この上乗せ金利が少ないです。

 

よいファンドとは、

いろいろと評価指標はありますが、

貸し倒れリスクが少ない、

保有資産の質が良い、

成長している、

経営者の人柄が良い、

もっと借りてくれそう、

いろいろです。

 

このスプレッドをいかに下げるかが、

ファイナンス担当者の能力です。

 

不動産鑑定士として、

ファンドの内容を深く理解していると、

金融機関の担当者から、

「あのファンドの担当は賢い」

と評価されて、

行内調整を上手に進めてくれる可能性

があります。

 

あと、

ファイナンス担当者でなくなっても、

優秀なら、その後の関係が続きます。

「あいつはあの会社で出世するだろう」

と見込まれれば、

その後も金融機関から連絡が来て、

たまーにランチとかします。

 

 ■天下の日本ビルファンド投資法人の借入 

https://www.nbf-m.com/nbf/release/files/20181010_%E8%B3%87%E9%87%91%E3%81%AE%E5%80%9F%E6%8F%9B.pdf

上のリンク先は日本ビルファンド投資法人

借換のプレスリリースですが、

不思議に思いませんでした?

 

借入先の金融機関は別々、

金額も別々なのに

なぜか金利が全部同じ。

 

なぜでしょうか。

 

■銀取とは

まず、どんな事業会社でも、

金融機関から融資を受けるためには、

「銀取」を締結する必要があります。

銀行取引約定書です。

 

銀行取引約定書とは、

融資取引を新しく始める際に、

貸す銀行と、借りる会社の間で締結する誓約書で、融資取引全般の細かな取り決めが

書かれています。

 

内容を一言で言うと、

「借りたら返せ。

金利が払えなくなったら即返せ。」

ですね。

 

■融資合意書 

銀取を締結する前提で、

REITはさらにもうひとつ、

大事な書面を、

全金融機関と締結します。

 

それが「融資に関する合意書」です。

 

コベナンツ」って聞いたことありませんか?

コベナンツとは、

融資の契約を締結するさいに、

契約書に記載することのできる

一定の特約事項のことである。

融資取引におけるコベナンツとは、

「情報開示義務」

「財務制限条項」

「担保制限条項」

などがあり、

これらの条項が守られなかった場合には

その時点での資金の全額返済や

金利優遇の取り消しなどが

ペナルティとして課される。

 

■情報開示義務

REITは各ファンドのHPなどに、

決算短信

有価証券報告書

資産運用報告

など、法律で定められた資料を

開示しています。

 

開示資料(IRライブラリ)|IR情報|ジャパンリアルエステイト投資法人 https://www.j-re.co.jp/ja_cms/ir/library.html

 

これ、ファイナンス担当者が

かなりのページを作るんですよ。

でも大変勉強になりました。

読むより作るほうが勉強になります。

 

REITコベナンツに当てはめると、

「情報開示義務」とは

上記の法律で定められた書類はもちろん、

運用資産の鑑定評価書

PMレポート

エンジニアリングレポート

毎月のキャッシュフロー

「包み隠さず全部提出しなさい」

という意味です。

 

鑑定評価書とか結構分厚いじゃないですか。

保有物件が多いとマジで大変です。

 

少し前のくそ金融機関は、

「紙でお願いします」

とかいって、全部印刷して提出していました。

 

CDに焼くからそれでいいやん!

圧縮フォルダで送信するからそれでええやん!!

読んだら絶対シュレッダーするやん!!!

 

何度思ったかわかりません。

金融機関はまだまだ古かったです。

いまはさすがに多少改善していると思います。

 

「財務制限条項」

REITの重要な指標として

LTVとDSCRがあります。

LTVは、Loan to Valueの略です。

 

LTVとは「総資産有利子負債比率」と言われ、

REITの借金比率を表す指標です。

 

LTVが高いほど借入金の比率が高いため、

リスクが高いREITであると判断されます。

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オモテのLTV算出方法ですが、

自己資金0円(いわゆるフルローン)で投資した場合、LTVは100%です。

全額自己資金(借入金0円)で不動産を購入した場合のLTVは0%です。

簡単ですね。

 

LTV = 有利子負債 ÷ 総資産 × 100

借入金600万円、エクイティ400万円を使って1,000万円の物件を購入した場合、LTVは60%です。

 

オモテがあればウラLTVもあって、

時価LTVというものがあります。

 

LTV = (有利子負債+敷金・保証金-敷金・保証金見合い現預金)÷ (資産総額(鑑定評価額)-敷金・保証金見合い現預金)

鑑定評価額=時価ですから、

時価LTV

というやつですね。

 

鑑定評価の知識がここでも活きるわけです。

鑑定評価額が変動すれば、

鑑定士なら理由がちゃんと説明できます。

普通のファイナンス担当者にはできません。

 

REITのLTVはだいたい

50−60%

と言われますが、

この時価LTVが、例えば60%

を超えるとどうなるか。

金融機関から

 

「気をつけろよ。増資(PO)でもしとくか?うん?」

 

と言われます。

 

なので、REITのPOはこの時価LTVが、

コベナンツで定められたLTVの

上限を超えたときに発生します。

POすると、LTVは下がります。

わかりますか?

 

LTV = 有利子負債 ÷ 総資産 × 100

借入金600万円、エクイティ400万円を使って1,000万円の物件を購入した場合、LTVは60%

でしたね?

 

POすると、エクイティが増えます。

単純計算ですが、

エクイティを100万円増やして借入金100万円を返済すると、

借入金500万円、エクイティ500万円を使って1,000万円の物件を保有しているので、LTVは50%ですね?

 

これを放置してPOせず、

二期連続して60%を超えたままだと、

金融機関から

 

「はいおわり、

今まで無担保無保証で貸してたけど、

全部担保に入れろ?

んで、だれか保証人つけろ。な?」

 

と言われます。

REITの借入金は、

基本、無担保無保証です。

https://www.nbf-m.com/nbf/release/files/20181010_%E8%B3%87%E9%87%91%E3%81%AE%E5%80%9F%E6%8F%9B.pdf

 

 ■おわりに

今日は長くなってしまいました。

次回はDSCRの説明から始めます。

 

大丈夫、

不動産鑑定士の知識は

ファイナンスでも活かせます。 

 

「アクイジションとか運用とか、

そっちの楽しそうな話をしてよ〜」

という声が聞こえてきそうですが、

ファイナンスの知識無くして

不動産は語れません。

 

楽しみにしていてください。

 

今日から!

銀行のことを銀行と呼ぶのはやめましょう。

金融機関といえば、それっぽく聞こえます笑

 

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